幻灯火
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「ちまきをくれなければ、悪戯をするぞ」 |
古嗣 |
「えーと、幻灯火…君は今日がどういう日かちゃんと聞いていたのかな?」 |
幻灯火 |
「勿論だ。人ならぬ装いをして他者を驚かし、その際に決まった合い言葉を言うのだろう?
そしてその合い言葉というのが、ち」 |
胡土前 |
「そういやこういう時に無闇矢鱈に張り切る秋房のヤツはどこ行ったんだ?」 |
古嗣 |
「ああ、彼ならお姫様たちに仮装を見せてくる、と張り切って出て行ったよ」 |
胡土前 |
「骨が南瓜を被ってるとしか言いようのない、あの格好をかよ?」 |
古嗣 |
「そう、怖くはないけれど微妙に不気味な、何とも反応に困るあの格好をだね」 |
胡土前 |
「相変わらず幸せなヤツだなぁ」 |
幻灯火 |
「ちまきをくれなければ、悪戯をするぞ。
……よし、完璧だな」 |
古嗣 |
「こっちの彼もね」 |
秋房 |
「っどわぁああああああ!?!?
空疎、貴様! 突然何をする!?」 |
古嗣 |
「…おや、噂をすれば影が差すとは言ったものだけど、まさか吹き飛ばされて現れるとは。随分と派手な登場だね、秋房」 |
秋房 |
「聞いているのか、空疎ぉお!!」 |
胡土前 |
「おーい秋房ーお前大分派手にやられたみてぇだが、そっちに鴉のヤツはいねぇぞぉ」 |
秋房 |
「っは!? 胡土前殿、これは失礼しました!」 |
古嗣 |
「それで? 君はどうして空疎から吹き飛ばされるような羽目になったんだい?」 |
秋房 |
「おお、よくぞ訊いてくれたな! 実は…」 |
古嗣 |
「と訊こうと思ったけれど、やっぱり止めておくよ。というより大体想像がつくからね」 |
秋房 |
「な!? どういう意味だ!?」 |
幻灯火 |
「大方いつもの通り、何か余計なことを言うかしでかすかして空疎を怒らせたのだろう」 |
秋房 |
「待て、何で俺に非があることが決定事項になってるんだよ!
俺はただ、誰より先に姫様方にご挨拶に行って、その帰りにたまたま会った空疎に姫様と芙蓉様から面白いと笑って頂けたことを自慢しただけだ!!」 |
幻灯火
胡土前
古嗣 |
「………………」 |
秋房 |
「な、何なんだ!? その、うわこいつ空気読めないのにもほどがあるだろうと言いたげな視線は…!」 |
古嗣 |
「うん、今回は大正解だ。冴えてるね、秋房。
けれど普段は何故その能力を発揮できないのかが大変遺憾でならないね」 |
胡土前 |
「古嗣よぉ。まあ、んなに言ってやんな」 |
幻灯火 |
「ああ、確かにな。胡土前の言う通りだ」 |
秋房 |
「こ、胡土前殿っ! 幻灯火っ! あり――」 |
胡土前 |
「その空気の読めないっぷりこそが秋房なんだからよ」 |
幻灯火 |
「ああ、本当に胡土前の言う通りだ。そうでなければ秋房ではない。むしろ空気の読める秋房など秋房ではない、想像することすら不可能だ」 |
秋房 |
「――がとう! なんて思った俺が馬鹿だったよ!!」 |
幻灯火 |
「うむ、己の無知を悟るのは良いことだぞ。自らがどれほどの無明の暗闇にいるかを知らねば、そこから這い上がることなど出来ない。だが逆に言えばそれを知りさえすればどのような阿呆であろうと努力次第でどうにかなるはずだ。きっとな」 |
古嗣 |
「良いことを言うね、幻灯火。でもね…世の中には努力だけではどうにもならないこともある。長く生きている君がそれを知らないわけじゃないだろう?
気休めの言葉だけではなく、どんなに残酷な真実だろうと伝えることも時には必要なことだと僕は思うよ」 |
幻灯火 |
「いや、きっと大丈夫だと私は信じている。
………………………………………………おそらく、多分」 |
秋房 |
「って、いきなり揺らぎすぎだろ!」 |
胡土前 |
「幻灯火よぉ、お前の負けだ。本当に腹の底から秋房のことを信じてるってんなら、目ぇ逸らさずに言い切れるはずだぜ…」 |
幻灯火 |
「っそれは……! っすまない、秋房…!」 |
秋房 |
「いや『っすまない、秋房…!』じゃないだろ!? 目逸らすどころか顔背けてるし!!」 |
胡土前 |
「秋房……幻灯火のヤツだって辛いんだ。お前も分かってやれ。情けを知ってこそ、真の剣士ってもんだ」 |
秋房 |
「…し、真の剣士……! 分かりました、胡土前殿!
…すまない、幻灯火。俺が間違っていた」 |
幻灯火 |
「…………」 |
秋房 |
「お前を責めるより先に、俺は俺自身を省みるべきだったんだ」 |
幻灯火 |
「…………………………」 |
秋房 |
「だから顔を上げろ、幻灯火。いつまでもそんな俯かなくてい」 |
幻灯火 |
「ふぁはっふぇふへへふぁふぉひ」 |
秋房 |
「っておい!! 反省してるのかと思ったら違ったよ!! 何が『分かってくれれば良い』だ!!!」 |
幻灯火 |
「ひふぁふぉふぃふぁはほふぉひひふぁひふぁはっふぁふぉは。ふぉふふぁひはふぃへふぃふぁひ」 |
秋房 |
「『下を見たらそこにちまきがあったのだ。後悔はしていない』じゃない!! 反省しろ、むしろ猛省しろよっ!!」 |
胡土前 |
「つーか秋房、お前よく幻灯火が何言ってんのか分かったな」 |
古嗣 |
「お姫様のこととなると常識と見境をなくす者同士の絆の賜物かな」 |
幻灯火 |
「ふぃっひょふぃふふは」 |
秋房 |
「一緒にするな!!」 |